痔_hemorrhoids

  痔多くの痔は切らずに漢方薬で改善し再発予防にも大変有効です 

 
痔は漢方薬が得意とする分野の一つです。痔はタイプによって大きく3つに分けられますが、最終的に起きていることは肛門周辺のうっ血であるため、漢方ではうっ血の原因となっている原因を解消する事と、うっ血そのものを取っていくやり方で改善させていきます。
外用の塗薬だけで対応できる場合もありますが、漢方薬で内科的に治していくことが痔改善の本道です。

 

痔のきっかけとして一番多いものは排便異常によるものです。特に便秘、下痢はお尻に対する負担が多く、便通異常を改善することは痔の漢方療法を行う上でも重要な位置づけになります。
 


 

 1. 痔核タイプ 

 

いぼ痔
痔核は肛門周辺の静脈のうっ血であるため、漢方ではこのうっ血をお血と言い、駆お血薬が応じます。外痔核や内痔核の程度の差にかかわらず駆お血薬を用います。
冷え性タイプは肛門周辺の水のうっ滞(水滞)が生じやすく下半身の血行が悪ため、冷やされた下半身の血液が肛門周辺を通って上半身に戻る際に腰部を冷やします。これが痔を悪化させるため、下肢を温めがら利尿し、水のうっ滞を取り除く事が大切です。
排便時に痔核から出血があるようなら止血する漢方薬を使います。軽度の出血であれば静脈性の出血のため軽めの消炎止血薬で止まりますが、便器が血で染まるような動脈性の出血は血管収縮作用のある強めの清熱止血薬を用います。
出血がしばらく続いているような人は、貧血やだるさ感を訴える方もいます。このタイプの方は、治る素体が弱っているため補血薬や補気薬などの補剤と呼ばれる漢方薬が必要です。痔の症状によって駆お血薬が主体の時もあれば、補剤が主体の時もあり、その時々の状況で用いる漢方薬が変わる場合があります。

 


 

 2. 脱肛タイプ 

 

いぼ痔梅の花
痔核タイプも慢性的に出血を繰り返していると、静脈に出来たうっ血も大きくなるため痔核の粘膜が厚く硬くなります。
そうすると排便時またはちょっとお腹に力が入っただけで脱肛しやすくなります。駆お血薬が中心になる事には変わりはありませんが、虚弱なタイプで肛門周辺の筋肉が弱いタイプはアトニータイプ、中気下陥証と呼び升堤薬が加わり、痙攣性で脱肛が戻せなくなるなど肛門の収縮が強いタイプは筋肉を緩める甘草や芍薬などが加わります。
脱肛が大きく炎症性の浮腫があれば、痔核を小さくするエッピ剤が使われることもあります。

 


 

 3. 切れ痔、裂肛タイプ 

 

切れ痔
痛みが強いのが切れ痔タイプです。鎮痛薬や、痛みからくる痙攣などに使う鎮痙薬など内服が中心ですが、出血や痛みが持続的であれば外用の紫雲膏や中黄膏などが使い分けられます。
固い便や便秘は裂肛を促進するので、便を柔らかくスムーズにすることが重要です。裂肛タイプは進行すると潰瘍化する場合があります。排膿薬や補薬を使って潰瘍にならないよう予防する事も大切でしょう。排泄の異常があれば、それを優先して治療していきます。

 


 

 4. 痔ろう、穴痔タイプ 

 
痔ろうやその前段階の肛門周囲炎、肛門周囲膿瘍は肛門小窩が細菌に侵されたことでことで発症します。
漢方ではこのような人を解毒証体質者と呼び内服、外用薬を中心とした薬物療法を試みます。患部が化膿性の炎症であることから清熱解毒薬や駆お血薬が応じます。皮膚病やおできなどに使う解表薬や排膿薬なども痔ろうや肛門周囲炎では用いられ、患部の化膿を消散させるようにします。外用では中黄膏で患部の腫れや熱感をとります。
痔ろうは繰り返しやすいため、化膿期、排膿期を過ぎた後も体質改善で漢方薬の服用を続けます。温清飲の加減法を中心に、駆お血薬を長服します。高栄養食品の過食など食毒(食べ過ぎからくる代謝異常;肥満、高コレステロール、糖尿など)があれば、そちらの対策を合わせて行います。

 


 

 5. 肛門掻痒症、かゆみタイプ 

 
痔そのものが原因となるかゆみは上記のタイプ別の療法で痔疾を直すことを目標に漢方薬を用います。原因不明のものは体質由来が多いため、個々の体質の応じた漢方薬が使われます。
良くみられるケースとして他の皮膚炎と同様にお血タイプがあります。痒み≒患部のうっ血とみて、アトピー性皮膚炎や脂漏性湿疹の際にも用いる漢方薬を内服します。湿疹化する、熱感のある炎症があるなら清熱解毒薬や止痒薬を配合します。患部の肥厚はお血とみて駆お血薬が応じます。

 

 痔の分類

1. イボ痔(痔核)
痔の中で一番多いタイプがイボ痔(痔核)といわれるタイプで、相談の約半数はこのタイプの痔です。お尻の出口に近い部分にできる外痔核と、お尻の奥にできる内痔核の2種類があります。
どちらのタイプもお尻のクッション材のような役目をする静脈叢(じょうみゃくそう)と呼ばれる毛細血管に出来たうっ血がイボ痔の正体です。できる場所によって2つのタイプがあります。
肛門を時計に見立てて、お腹側を12時と、背中側を6時とすると、3時、7時、11時の位置に血管が走っているため痔が出来やすくなります。
①外痔核
肛門より少し内側に入ったところに歯状線といわれる肛門と直腸の境目となるラインがありますが、外痔核はこれより外側(お尻の出口側)に出来る痔核を言います。排便時に脱出しやすく、付近を知覚神経が通るため痛みを訴えることが多いです。また、排便時にいきんだ拍子に突然血豆のような黒ずんだイボが肛門周辺に現れた場合は、血栓性外痔核という病気もあります。
②内痔核
肛門より少し入ったところにある歯状線より内側(直腸側)に出来る痔核を内痔核と言います。この部分は知覚神経がないため、通常は痛みを感じることはありません。排便時に脱出や出血をともない、脱出した痔核がうっ血を起こすと痛みを感じるようになります。内痔核は悪化の程度によって4つに分類されます。
[Ⅰ度]痔核が肛門内で膨らんでいるだけで、自覚症状は無いが、排便時に出血がみられるレベル。
[Ⅱ度]排便時に痔核が脱出するが、排便後は自然に中に戻る。出血や残便感がある。
[Ⅲ度]排便時に痔核が脱出し、排便後は指で押し戻さないと戻らない。お腹に力を入れただけで脱出してしまう。
[Ⅳ度]排便に関係がなく痔核は脱出しており、指で押し戻しても戻らない。粘液や便が染み出てしまい下着が汚れる。この状態をカントン痔核と呼びます。

2. 裂肛(切れ痔)
俗に切れ痔と言われるのが裂肛です。肛門の皮膚が裂けたり切れたりすることで起こる外傷です。一般に痛みが強く、排便後も痛みが残る場合があります。
原因として、固くて太い排便があった際に肛門を傷つけたり、慢性の下痢による肛門の炎症が原因となる場合がほとんどです。慢性化すると排便のたびに裂肛の傷が深くなり、患部が潰瘍化したり、肛門ポリープや見張りイボが出来る場合があります。

3. 痔ろう(穴痔)
直腸と肛門の境目にある歯状線には、肛門小窩(こうもんしょうか)という小さなくぼみが10数個あります。このくぼみの中に、通常は入ることのない便が、下痢などの水様便が原因で入ってしまい、細菌感染を起こしてしまうことがあります。その結果、肛門の周りに炎症が起き膿がたまります。これが痔ろうの前段階である肛門周囲膿瘍という状態です。
この状態が続いたまま放置すると、たまった膿が出口を探してトンネルを作ってしまい、やがてはお尻を貫通してしまいます。膿が出ることで腫れや強い痛み、38,9度ほど高熱などの症状は良くなりますが、トンネルは残っているため繰り返し細菌感染を起こし痔ろうを形成してしまいます。また、まれに赤ちゃんに出来る痔ろうがあります。生後1から3か月くらいの男児に出来、乳幼児痔ろうと呼ばれています。

4. 肛門掻痒症(こうもんそうようしょう)
読んで字のごとく、肛門掻痒症とは肛門辺りが痒くなる症状のことを指します。お尻の周辺は常に不衛生な状態なため、かぶれを起こしたことによるケースが多いのですが、ステロイドクリームなどの塗り薬を漫然と使用しているために過敏症になっている場合もあります。
痔がある場合だけでなく、ぬり薬によるかぶれ、お尻の不衛生、更年期の女性ホルモンの分泌低下、アレルギー体質などで原因は様々です。慢性の下痢などと同様に、肛門掻痒症はとてもつらい症状で、睡眠不足や集中力の低下など生活の質を著しく落としてしまう場合が多いです。
長期に塗薬を使用することによって、皮膚感覚が過敏になり痒みを増幅させているような場合もあります。ステロイドが止められず、治療に難渋しているケースもよくみられます。